まず、自分がどちらの区分にいるかを確認する
厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査で、IT関連の職種別の年収を見ると、同じ「ITエンジニア」という括りの中でも、職種区分によって年収水準に大きな差があることが分かります。
| 職種区分 | 平均年収 |
|---|---|
| ソフトウェア作成者 | 574.1万円 |
| その他の情報処理・通信技術者 | 628.9万円 |
| システムコンサルタント・設計者 | 752.6万円 |
いちばん人数が多いソフトウェア作成者は574.1万円。対してシステムコンサルタント・設計者は752.6万円で、差は178.5万円あります。この差を分けているのは、スキルの高低ではなく、担当している工程です。
要件を決め、構成を設計し、どう作るかを規定する側と、規定されたものを実装する側。どちらも技術がなければ務まりませんが、金額の付き方は違います。この記事では便宜上、前者を「設計・コンサル側」、後者を「実装側」と呼びます。
まず確認しておきたいのは、この区分が職種の分類であって、あなた個人のスキルを評価したものではないという点です。高度な実装を担っている人がソフトウェア作成者に集計されていることは当然ありますし、逆に、肩書きが「コンサルタント」や「設計者」であっても、実務では実装寄りの作業が中心になっているケースもあります。ここで見ているのは、あくまで「どの役割で雇われ、どの工程を主に担当しているか」による、統計上の水準の差です。
そのため、最初にやるべきことは、自分の今の働き方を振り返り、日々の業務時間の大半が「作る」側に寄っているのか、「決める」側に寄っているのかを、肩書きではなく実態で判定することです。要件定義や設計判断、他社・他部門との調整に多くの時間を使っているなら設計・コンサル側に近く、コーディングや実装作業が中心なら実装側に近いと考えられます。
この後の話は、あなたがどちらの型に近いかによって、取るべき選択肢が変わってきます。実装側にいて年齢がまだ若い場合と、実装側のまま40代に入っている場合、そしてすでに設計・コンサル側にいる場合とでは、178.5万円という差との向き合い方がそれぞれ異なります。まずは自分がこの二つのうち、どちらに近い働き方をしているかを、ここで一度言語化しておいてください。
20〜30代で実装側にいるなら、差はまだ届く距離にある
職種区分の平均だけを見ると178.5万円の差ですが、年齢階級別に見ると、この差はまだ年数によって固定されきっていないことが分かります。30〜34歳の時点では実装側と設計・要件定義側の差は139.4万円、35〜39歳では175.8万円です。これは40〜44歳の253.9万円と比べると、まだ縮まる余地のある幅と言えます。
この差が構造として開いていくのは、年齢そのものというより、担当する工程が固定されていく過程で起きます。実装を担当し続ける限り、評価の対象は「どれだけ正確に、どれだけ早く作れるか」という尺度に留まりますが、要件を決め構成を設計する側に回ると、評価の尺度自体が「何を作るべきかを判断できるか」に変わります。この尺度の切り替えが起きるタイミングが早いほど、40代に入ってからの差を埋めやすくなります。
ここで参考になるのが、実装から設計・要件定義側へ役割を移す転職は上がりやすいという傾向です。区分間に平均178.5万円の水準差があることを踏まえれば、同じ会社の中で工程を変えるより、設計・要件定義を任せる前提で採用する会社に移る方が、役割の切り替えが起きやすいケースもあります。ただし、求人票の「設計から携われます」という文言だけでは、入社後に実際どちらの工程を任されるかは判断できません。
そのため、動くこと自体よりも、動く先で担当する工程がどちらに寄っているかを事前にどれだけ具体的に確認できるかが分かれ目になります。応募企業ごとの配属実績や、設計・要件定義側での採用ニーズがどの程度あるかを把握しているであれば、入社後の担当工程について、求人票だけでは読み取れない情報を確認できます。20〜30代のうちは、この確認を一社ごとに丁寧に行う時間の余裕がまだあるという点が、40代との違いです。
40代で実装側にいるなら、まず現在地を数字で確認する
40代に入ってから実装側、つまりソフトウェア作成者の区分にいる場合、まず見ておくべきは自分がいる年齢階級の数字です。40〜44歳のソフトウェア作成者の平均年収は650.5万円で、同年代のシステムコンサルタント・設計者は904.4万円。差は253.9万円で、年齢階級別に見た中で最大の開きになります。
もうひとつ確認しておきたいのがピークの位置です。ソフトウェア作成者がピークに到達するのは45〜49歳の738.0万円ですが、システムコンサルタント・設計者は5年早い40〜44歳の時点ですでに904.4万円に達しています。つまり実装側がピークにようやく届く年齢で、設計・コンサル側はピークを通過し終えているという時間差があります。この後ソフトウェア作成者は50〜54歳で695.4万円まで下がり、以降も730万円前後で横ばいに近い動きになります。
この状況で読んでおきたいのが、パターン表の最後の行です。「40代に入ってから役割を変えようとする」場合は上がりにくく、間を埋める実績が求められる、という条件です。これは30代までの「差がまだ小さいうちに動く」パターンとは前提が違います。20代・30代であれば実装経験そのものが評価材料になりますが、40代で工程を移す場合は、実装だけでなく要件定義や設計に近い部分にどれだけ関与してきたかという実績が問われます。
具体的には、担当したプロジェクトの中で仕様の決定や技術選定にどこまで関わったか、上流工程のメンバーとのやり取りをどの程度自分の判断で担ってきたかといった経験です。これが棚卸しできるかどうかが、40代での工程移動が現実的な選択肢になるかどうかを分けます。実績が示せない状態で工程だけを変えようとしても、企業側は評価しづらく、結果として横ばいの条件で終わることになりやすいというのが、この年代特有の難しさです。
一方で、今の実装側の年収水準そのものが悪いわけではありません。45〜49歳の738.0万円は、20代の頃と比べれば大きく積み上がった数字です。無理に工程を変えることだけが選択肢ではなく、今の実装経験を活かせる環境で待遇を上げる、あるいはこれまでの経験を材料に上流側への異動を打診するなど、いくつかの動き方があります。どの動き方が現実的かは、これまで何を担当してきたかによって変わります。
すでに設計・コンサル側にいるなら、ピークの位置を把握しておく
ここまでの2つの型――20〜30代で動くか、40代で確認するか――に対して、すでにシステムコンサルタント・設計者側にいる方は前提が違います。論点は離脱ではなく、今のポジションをどう維持し、いつまで維持できるかです。
まず現在地を確認します。システムコンサルタント・設計者の年収は40〜44歳の904.4万円でピークに達し、その後は45〜49歳874.8万円、50〜54歳851.1万円と下がっていきます。ただし下がり方は緩やかで、ピークから50〜54歳までの下落は約53万円です。ソフトウェア作成者が45〜49歳でピークの738.0万円に到達し、その後50〜54歳で695.4万円まで下がる動きと比べると、下落幅・下落速度ともに小さい構造です。
次に人数の動きです。システムコンサルタント・設計者は25〜29歳の22,100人から45〜49歳の18,760人まで、約15%の減少にとどまります。ソフトウェア作成者が25〜29歳の165,240人から30代で10万人前後まで急減するのとは対照的です。入口を通過した後も、この区分に残り続ける人が多いということが、この人数構成から読み取れます。
この2つの事実を合わせると、すでに設計・コンサル側にいる場合の論点は「離脱するかどうか」ではなく、「ピークをどう過ぎるか」に絞られます。具体的には次の2点が確認事項になります。
- 自分の年齢がピーク(40〜44歳)の手前か、通過後かを把握する。手前であれば現状維持で水準は上がっていく局面にあり、通過後であれば緩やかな下降局面に入っていることを前提に、次の工程や役割を考える時期にあたります。
- 担当している工程が「設計・要件定義」寄りか、名目上はコンサル職でも実態が実装寄りかを確認する。区分は職種の分類であり、実際の業務内容とは別に集計されているため、肩書きと業務の乖離があれば、その乖離が次の転職時に評価されない可能性があります。
50代以降も851万円台を維持している事実は、この区分が高齢まで水準を保ちやすい構造であることを示していますが、それは自動的に維持されるものではなく、担当工程を明確に保っている場合の数字です。ピークを過ぎたタイミングで工程が曖昧になると、この緩やかな下降がより急な下降に変わる可能性があります。
どの型でも見落としやすい、求人票の3つの罠
求人票の見え方は、どちらの型でも同じ落とし穴を持っています。まず、提示されている年収レンジの下限です。ITの求人票は幅を持たせた表記が一般的ですが、実際のオファーは現在の年収を基準に決まることが多く、レンジ上限は経験者向けに用意されているのが実情です。レンジの広さだけで期待値を作ると、実際の提示額との差に驚くことになります。
次に、みなし残業の時間数です。提示年収に固定残業代が含まれている場合、その時間数を確認しないと時間あたりの単価は比較できません。年収が50万円高くても、みなし残業が月20時間分多ければ、実質的には割に合っていない可能性があります。
そして3つ目が、担当工程が入社後に決まるという点です。ここまで見てきた通り、年収を分けているのは実装側か設計・コンサル側かという担当工程です。求人票に「設計から携われます」と書かれていても、実際は入社後の配属で決まるケースが多く、この項目だけは選考の段階で具体的に確認しておく必要があります。配属先の工程が選考のどの段階で確定するのかを、企業ごとの傾向を把握しているに事前に聞いておくことができます。
この3点はどの型に当てはまる読者にも共通するチェック項目です。レンジの下限を基準に考えること、みなし残業の時間数で単価を計算し直すこと、担当工程の確定時期を選考中に確認すること。この3つを押さえておけば、提示された条件が自分の型に見合っているかどうかを、入社前に判断できます。
自分がどの型かを見極めるために
3つの型のどれに当たるかは、この記事だけでは決め切れません。同じ「ITエンジニア」でも、20代でソフトウェア作成者側にいる人と、40代でシステムコンサルタント・設計者側にいる人とでは、動くべき理由も、動く緊急度も違います。職種区分、年代、そして「実装を続けたいのか、設計・要件定義側に寄りたいのか」という希望する方向の3つが揃って、初めて自分がどのパターンに当たるかが決まります。
ここまで見てきた数字を自分の状況に当てはめようとすると、次のような分かれ道になります。
- 20〜30代・実装側:差はまだ139万〜176万円ほどで、届く距離にあります。設計・要件定義側への移動を検討する余地があります。
- 40代・実装側:差は254万円まで開いており、動くなら間を埋める実績の有無が条件になります。
- すでに設計・コンサル側:離脱よりも、担当工程を明確にしたまま維持する方が論点になります。
ただし、これはあくまで統計上の傾向です。実際に自分がいくらの水準にいて、どれだけ上げられる余地があるかは、職種区分・年代・希望する方向の組み合わせでしか判断できません。同じ35〜39歳のソフトウェア作成者でも、これまでの経験内容や、希望する方向によって、現実的に届く条件は変わってきます。
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よくある質問
自分が実装側か設計・コンサル側か、求人票だけで判断できますか?
難しいです。『設計から携われます』と書かれていても実際の配属で決まることが多いため、担当工程が選考のどの段階で確定するかを事前に確認する必要があります。
20代のうちは、実装側にいても急いで動く必要はありませんか?
20〜24歳時点の差は85.4万円とまだ小さいですが、25〜29歳で100.8万円、30〜34歳で139.4万円と年齢とともに開いていきます。差が小さいうちの方が、埋める距離は短く済みます。
40代に入ってから実装側から設計・コンサル側へ動くのは手遅れですか?
不可能ではありませんが、40〜44歳時点で差は253.9万円まで開いており、この段階では間を埋める実績が求められます。動くこと自体より、何を積んでから動くかが論点になります。
すでに設計・コンサル側にいる場合、何を意識すべきですか?
この区分は40〜44歳の904.4万円でピークに達したあと緩やかに下がる構造です。人数自体は45〜49歳でも18,760人と大きく減らないため、離脱の心配より工程を維持し続けられるかが論点になります。
実装側のまま働き続けるのは不利な選択ですか?
人数で見るとソフトウェア作成者は約77万9千人と多数派で、45〜49歳でも95,590人と一定数残っています。水準だけでなく、どちらの構造で働き続けたいかも判断材料になります。