常勤で比べると、公立が全類型で上回る
こども家庭庁が5年ぶりに実施した「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」(令和6年度)に、施設類型ごとの公立・私立別の給与月額が出ています。まず、現場の中心となる職位である常勤の給与から見ていきます。
| 施設類型・職種 | 公立 | 私立 | 差 |
|---|---|---|---|
| 幼稚園(新制度)・教諭 | 404,537円 | 335,387円 | +69,150円 |
| 保育所・保育士 | 365,542円 | 348,119円 | +17,423円 |
| 認定こども園・保育教諭 | 346,376円 | 331,779円 | +14,597円 |
常勤に関しては、3類型とも公立が上回っています。ただし、差の大きさはまったく違います。幼稚園の69,150円に対して、保育所は17,423円、認定こども園は14,597円にとどまります。幼稚園だけが、他の2類型と比べて4倍以上の開きを見せている形です。
単純に12倍して年額に換算すると、幼稚園では公立と私立の差はおよそ83万円になります。一方、保育所と認定こども園では年間20万円前後の差にとどまり、幼稚園ほどのインパクトはありません。同じ「常勤・公立が高い」という結論の中でも、実際に選び方に影響する金額かどうかは類型によってかなり違うということです。
この差がそのまま「公立を選んだから得た金額」と言えるかどうかは、もう一つ確認が必要です。表には出ていませんが、この調査では公立と私立で平均勤続年数にも差があり、幼稚園は公立11.2年・私立9.2年、保育所は公立10.6年・私立11.2年、認定こども園は公私とも9.8年です。勤続年数が長ければ給与も上がりやすいため、幼稚園の69,150円のうち一定部分は、この2.0年の勤続差で説明できる可能性があります。この点は次のセクションで、類型ごとに詳しく見ていきます。
ここでまず押さえておきたいのは、「常勤で働くなら公立が有利」という傾向自体は3類型に共通しているものの、その有利さの大きさは幼稚園と、保育所・認定こども園とでは性質が異なるという点です。幼稚園は差の絶対額が大きく、公立を選ぶ動機として金額面でも意味を持ちやすい一方、保育所と認定こども園は月1.5万円前後の差であり、施設ごとの処遇改善加算の配分状況など、公立か私立かという軸以外の要素の方が実際の手取りに影響する場合もあります。
非常勤になった瞬間、数字は逆転する
常勤で見た公立優位が、非常勤になった瞬間にひっくり返ります。同じ調査の非常勤の給与月額(賞与込み)を見ると、保育所の保育士は私立243,404円・公立190,521円で私立が52,883円高く、幼稚園(新制度)の教諭は私立233,511円・公立191,232円で42,279円、認定こども園の保育教諭は私立245,709円・公立208,838円で36,871円、3類型すべてで私立が上回っています。
常勤では公立が全類型で上、しかも幼稚園は69,150円という最大の差を見せていました。非常勤ではその構図がそのまま逆になり、しかも差の大きさも36,871円〜52,883円と、常勤の保育所・認定こども園の差(1万円台)よりむしろ大きいという結果です。「公立の方が安定して高い」という前提は、非常勤という働き方を挟んだ瞬間に成立しなくなります。
ただし、ここで並べている私立の非常勤の金額には注記が必要です。この数字は、常勤と同じ勤務時間で働いたと仮定して換算した値であり、施設が定める週の勤務時間をもとに算出されています。実際の受取額は勤務時間に比例するため、表の金額がそのまま毎月の手取りになるわけではなく、あくまで時間あたりの水準を比べるための指標として見る必要があります。
子育てや介護との両立でパート勤務を検討している場合、この数字だけを見れば公立にこだわる理由は見つけにくくなります。もっとも、非常勤の待遇は勤務時間の融通や社会保険の加入条件など、月額だけでは測れない要素も絡みます。施設ごとの非常勤の実際の勤務時間や加入条件をで事前に確認できると、求人票の金額だけでは見えない部分の判断材料になります。
役職に就くとどこまで開くのか
幼稚園については、役職別のデータも公表されています。教諭の段階で69,150円だった差が、上の職位でどこまで開くかを見ます。
| 職位(幼稚園・常勤) | 公立 | 私立 | 差 |
|---|---|---|---|
| 園長 | 658,303円 | 541,709円 | +116,594円 |
| 副園長 | 609,176円 | 474,295円 | +134,881円 |
| 教頭 | 603,556円 | 458,151円 | +145,405円 |
| 主幹教諭 | 560,145円 | 436,666円 | +123,479円 |
| 指導教諭 | 473,219円 | 393,770円 | +79,449円 |
| 教諭 | 404,537円 | 335,387円 | +69,150円 |
教諭の69,150円から、指導教諭で79,449円、主幹教諭で123,479円、そして教頭では145,405円まで開きます。役職が上がるほど、公立と私立の差は広がっていく構造になっています。教頭の145,405円は、教諭の段階の差の2倍以上です。
この構造が意味するのは、私立幼稚園で常勤のまま昇進を重ねても、給与面では公立の同じ職位に届きにくいということです。園長まで昇っても541,709円で、これは公立の教頭(603,556円)や副園長(609,176円)にも及びません。私立側で常勤の枠組みにとどまる限り、役職による上積みだけで公私の差を埋めるのは難しいという読み方になります。
長く勤めて役職を目指す前提で職場を選ぶなら、この開き方は判断材料になります。ただし公立の場合、採用は自治体の公務員試験を経由します。年齢制限が設けられていることや、その年度に募集自体がないこともあるため、私立から公立への異動は一般的な転職活動というより「受験」に近い性質を持ちます。役職の差だけを見て公立を志望しても、募集年度や年齢条件が合わなければ、そもそも選考の土俵に立てない場合がある点は押さえておく必要があります。
勤続年数を差し引いても、差は残るか
常勤の差を見るとき、見落としてはいけない列があります。勤続年数です。同じ調査には給与月額だけでなく、その金額を支える平均勤続年数も記載されており、これを合わせて読むと3類型の意味合いがそれぞれ違ってきます。
まず認定こども園です。公立・私立とも平均勤続年数は9.8年で完全に一致しています。勤続年数という条件がそろった状態で14,597円の差が出ているため、この金額は勤続の長さでは説明できません。公立・私立という制度の違いそのものが生んでいる差と読んでよい数字です。3類型の中でもっとも「素直に読める」差だと言えます。
次に保育所です。ここは条件がそろっていません。公立の平均勤続年数は10.6年、私立は11.2年で、私立の方が0.6年長く勤めています。それにもかかわらず給与は公立が365,542円、私立が348,119円で公立が17,423円上回っています。勤続が短い方が高い給与を得ているという状況なので、勤続年数の差を考慮に入れると、公立と私立の実質的な差は表面上の17,423円よりもう少し大きい可能性があります。
最後に幼稚園です。3類型の中でもっとも慎重な読み方が必要になります。公立の平均勤続年数は11.2年、私立は9.2年で、2.0年の開きがあります。給与の差は69,150円と3類型で最大でしたが、この差のうち一定部分は勤続年数の違いによって生じている可能性があり、69,150円をそのまま「公立を選べば得られる差」と受け取ることはできません。勤続が2年長ければ昇給分が積み上がるのは自然なことで、その効果がどの程度含まれているかは、この調査の数字だけでは切り分けられません。
| 施設類型 | 勤続年数の条件 | 差の読み方 |
|---|---|---|
| 認定こども園 | 公私とも9.8年で一致 | 14,597円はほぼ制度差そのもの |
| 保育所 | 公立10.6年 < 私立11.2年 | 17,423円は実質的にはもう少し大きい可能性 |
| 幼稚園 | 公立11.2年 > 私立9.2年(2.0年差) | 69,150円は勤続差込みの数字、そのまま公立優位と読めない |
まとめると、3類型とも公立が常勤で上回るという結論自体は動きませんが、その差を額面通りに受け取れるのは認定こども園だけで、保育所は過小評価、幼稚園は過大評価の方向にそれぞれ働いている可能性がある、というのがこの調査から言える範囲です。
公立を選ぶ道、私立を選ぶ道
ここまで見てきた金額差は、そのまま「働き方の選び方」の判断材料になります。公立を選ぶ場合、採用ルートは自治体が実施する公務員試験一本です。多くの自治体で年齢制限が設けられており、さらにその年度に募集自体が存在しないこともあります。つまり「私立から公立に移りたい」と思い立ってもすぐには動けず、志望する自治体の受験資格と募集年度を先に確認するところから始める必要があります。幼稚園教諭のように常勤で69,150円、役職まで含めれば12万円規模の差が出る類型では、この受験という手続きコストを払う価値が数字の上でも見えやすいと言えます。
一方で保育所・認定こども園は事情が異なります。常勤の差は14,597円から17,423円と、幼稚園の4分の1以下にとどまります。この規模になると、公立か私立かという施設種別よりも、その施設が処遇改善等加算をどれだけ取得し、どう配分しているかのほうが給与額に効いてくる可能性があります。加算の取得状況や配分の仕方は施設ごとにばらつきがあり、求人票の記載だけでは読み取れないのが実情です。加算の配分実績を把握しているであれば、応募前の段階でその施設の配分状況を確認できることがあります。
整理すると、幼稚園で常勤・役職志向なら公立の受験ルートを軸に動く選択に数字の裏付けがあり、保育所・認定こども園で常勤を考えるなら公私の区分にこだわるより加算配分を確認する動き方のほうが合理的です。そして非常勤を選ぶなら、これまで見た通り3類型とも私立が上回っているため、公立にこだわる金銭的な理由は今回のデータからは見つけにくくなります。どのルートを取るにせよ、公立は試験の合否と募集年度という自分でコントロールしにくい要素が絡む一方、私立は施設選びの情報収集次第で差を縮められる余地がある、という違いを踏まえて動き方を決めることになります。
どちらが自分に合うかを決める前に
ここまでの数字を並べても、「公立か私立か」という問いそのものが、実はあなたの状況には合っていない可能性があります。常勤で働くのか非常勤で働くのか、役職を目指すのか現場に残るのかで、有利な選択肢がそっくり入れ替わるからです。常勤なら公立が上、非常勤なら私立が上、役職を目指すなら公立の伸びしろが大きい、保育所や認定こども園の常勤なら差は1.5万円前後で加算の配分次第――という具合に、軸が違えば答えも違います。
つまりこの記事の数字だけでは、「あなたにとっての正解」は出ません。今の働き方(常勤・非常勤の希望)、目指す施設類型、役職志向の有無という3つの条件を自分で当てはめて初めて、公立と私立のどちらが得かが決まります。条件を当てはめないまま相談に行くと、提示された金額が高いのか安いのかを判断する基準を持たないまま話が進んでしまいます。
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よくある質問
常勤と非常勤で、公立と私立の有利不利は本当に逆転しますか?
逆転します。常勤は幼稚園・保育所・認定こども園の3類型すべてで公立が上回りますが、非常勤になると同じ3類型すべてで私立が上回ります。働き方を決めずに公立か私立かだけを比べても、答えは出ません。
公立と私立の差は、幼稚園・保育所・認定こども園で同じ大きさですか?
違います。常勤の差は幼稚園69,150円に対し、保育所17,423円、認定こども園14,597円と幼稚園だけが突出しています。非常勤では逆に3類型とも36,871円〜52,883円とまとまった水準で私立が上回ります。
役職が上がるほど公立が有利になるのはなぜですか?
幼稚園の職位別データでは、教諭段階の69,150円差が主幹教諭で123,479円、教頭で145,405円まで開きます。理由は調査からは分かりませんが、上位職ほど公私の差が広がる傾向が数字として出ています。
勤続年数の差を考慮すると、公立と私立の差は縮まりますか?
類型によります。認定こども園は公私とも勤続9.8年で一致しているため14,597円差は制度そのものの差と読めますが、幼稚園は公立11.2年・私立9.2年と2.0年差があり、69,150円の一部は勤続差で説明される可能性があります。
私立から公立への転職は、私立同士の転職と同じ感覚で進められますか?
異なります。公立の採用は自治体の公務員試験を経由するため、年齢制限やその年度の募集有無に左右されます。私立から公立への移動は一般的な転職活動というより受験に近い性質を持ちます。